「また近くのデイサービスが閉まった」という話を、最近やたらと耳にする。
2025年、介護事業者の倒産・廃業が過去最多水準を記録した。東京商工リサーチの集計では介護事業者の倒産は176件(前年比約12%増)、負債総額は約120億円。廃業・解散に至っては653件にのぼる。1日あたり約2件が廃業している計算だ。
この数字のうち、通所介護(デイサービス)が占める割合は全業種の中でも高く、倒産・廃業の原因別では「販売不振(売上不足)」が最多で全体の約6割を占める。つまり多くは「利用者がいないから」ではなく、「利用者はいるのに収益が追いつかない」という構造的な問題で閉じている。
私は行政書士として介護事業所の指定申請・変更届・更新手続きを数多く手がけてきた。また、M&A登録支援機関として事業の売却・承継の相談も受けている。その立場から、この状況を単なる「経営努力不足」で片付けることはできない。今起きていることには、制度設計そのものが抱える矛盾がある。
①介護報酬の構造——単価は下がり、加算は複雑化する一方
2024年度の介護報酬改定において、通所介護の基本報酬(7時間以上9時間未満・通常規模・要介護3の場合)は1回あたり約790単位から変動し、実質的に引き下げられた区分も多い。表向きのプラス改定であっても、処遇改善加算の一本化に伴う算定要件の変更で、実態としての収入が減少した事業所は少なくない。
特に深刻なのが、加算を取れている事業所と取れていない事業所の二極化だ。
加算を積み上げることで基本報酬の減少を補える事業所がある一方、書類整備・人員配置・研修実施といった要件を満たせず、加算を1つも取れていない小規模事業所も多数存在する。加算の取りこぼしは、月単位でみると数万円、年間にすると50〜100万円以上の収入差になることも珍しくない。
2026年6月には、処遇改善を目的とした臨時介護報酬改定が予定されている。介護職員の賃金を月額平均1.9万円引き上げる財源として投入される見込みだが、この加算を受け取るためにも申請書類・体制要件の整備が必要になる。申請できない事業所は、賃上げ財源を受け取れないまま終わる可能性がある。
②人手不足の実態——採用より「辞めない仕組み」の方が先に崩れた
介護労働安定センターの調査(2024年度)によると、介護職員の離職率は14.3%。一見低下傾向に見えるが、採用倍率は高止まりしており、有効求人倍率(ホームヘルパー)は3倍超が続く。「採れない」だけでなく、「採っても辞める」という二重苦が現場を直撃している。
特にデイサービスでは、送迎業務・入浴介助・機能訓練といった体力的負荷の高い業務が集中しており、40代以上の職員が多い現場では体力的な限界を理由にした退職も目立つ。賃金を上げたくても原資がない、という経営者の声は相談の場でも繰り返し聞く。
外国人介護人材——現実的な選択肢になりつつある
こうした状況を背景に、外国人介護人材の活用が現実的な選択肢として注目されている。在留資格の観点から、介護現場で就労可能な外国人の主なルートは以下のとおりだ。
①特定技能1号(介護)
2019年の制度開始以降、急速に活用が広がっている。介護の特定技能1号では、技能試験(介護技能評価試験)と日本語試験(N4相当以上)に合格することで、訪問介護を除くデイサービスを含む介護施設全般で就労できる。在留期間は1年ごとの更新で通算最長5年。家族帯同は認められていないが、現場での即戦力として期待されている。
②技能実習(介護)→育成就労(2027年新制度)
介護分野の技能実習は2017年に追加されたが、入国から半年は訪問系サービスへの従事が制限されており、デイサービスではこの期間は活用しにくい。ただし、2027年から技能実習制度が廃止・改組され、「育成就労」制度へ移行する予定。これにより一定条件下で転職が認められるなど、労働者の権利保護が強化される見込みだ。
③在留資格「介護」
介護福祉士の資格を取得した外国人が取得できる在留資格。日本の介護福祉士養成施設を卒業・資格取得後に申請でき、在留期間は5年・更新可能で、永住への道も開かれている。即戦力というより中長期的な人材確保の観点から活用される。
外国人介護人材の活用は確かに人手不足の一助になるが、雇用するにあたっては在留資格の種類に応じた申請手続き、受入れ機関としての各種要件の整備、労働条件の書面化など、複雑な対応が必要になる。
申請取次行政書士とは何か——ここで役割が出てくる
外国人の在留資格に関する手続きは、出入国在留管理庁(入管)への申請が必要になる。この申請は本人や雇用主(企業・法人)が行うのが原則だが、行政書士のうち「申請取次行政書士」として登録されている者は、本人に代わって申請書類を作成・提出することができる。
特定技能の場合、在留資格申請に加えて、特定技能所属機関(受け入れ事業者)としての各種届出——四半期ごとの定期届出、受入れ状況の報告、支援計画の実施記録管理——が継続的に発生する。こうした手続きを自力でこなすには、相当の事務工数が必要だ。小規模なデイサービスでは事務担当者がいないケースも多く、現場の管理者が対応せざるを得ない現実がある。
申請取次行政書士に依頼することで、申請書類の作成・提出代行だけでなく、制度改正への対応、更新スケジュールの管理、支援計画書の整備といったトータルサポートを受けることができる。外国人介護人材の活用を検討しているデイサービス経営者にとって、こうした専門家との連携は実務上の必須条件と言っても過言ではない。
③「とりあえず開設」組が今、分岐点に立っている
2012〜2015年ごろ、デイサービスへの参入ラッシュがあった。介護保険改正による地域密着型サービスの拡充、小規模デイへの需要増、比較的低コストでの開業可能性——これらが重なり、個人経営・法人問わず多くの事業所が生まれた。
当時から10年が経過した今、その世代のオーナーが「先が見えない」状態に入っている。報酬単価の低下、人手不足、設備の老朽化、そしてオーナー自身の体力・年齢問題。廃業件数が増えているのは、こうした「時限爆弾型」のリスクが一斉に顕在化しているからだとも言える。
指定申請の手続きに関わっていると、当時に開設した事業所が10年後に「もう閉めます」と言ってくるケースが増えてきた。同時に、「誰かに引き継いでもらえないか」という相談も増えている。
④廃業と倒産の違い、そして事業承継という選択肢
メディアでは「介護事業者倒産過去最多」と報じられるが、件数の大半を占めるのは倒産(法的整理)ではなく廃業(任意清算)だ。廃業は必ずしも「経営が破綻した」ことを意味しない。
実際に相談を受けるケースを分類すると、大きく3つのパターンがある。
一つ目は「赤字が続いて資金繰りが限界」というケース。これは典型的な倒産前の状態であり、早期に介入できれば再生策または売却による事業継続の可能性がある。二つ目は「黒字だが後継者がいない」というケース。オーナーが高齢、または外部への譲渡を検討しているが具体的な相手が見つからない状態だ。三つ目は「まだ利益があるうちに出口を探したい」というケース。これが最も選択肢が広く、M&Aによる譲渡が現実的な手段になる。
介護事業のM&Aには、通常の事業売却と異なる手続きが伴う。介護保険事業の指定は法人に対して行われており、事業譲渡の際には新たな法人による指定申請(または承継の届出)が必要になる。また、利用者との契約継続、従業員の雇用承継、処遇改善加算の算定要件の引継ぎなど、介護特有の手続きが重なる。
こうした手続きを適切に処理しながらM&Aを進めるためには、介護事業の実務を熟知した行政書士・M&A支援機関との連携が不可欠だ。私自身がM&A登録支援機関として関わる案件では、書類面のサポートだけでなく、買い手との条件調整・スケジュール管理まで一体で対応している。
では、経営者は今何をすべきか
倒産・廃業が過去最多という状況でも、加算を適切に取得し、人材確保を工夫し、運営基盤を整えている事業所は着実に経営を続けている。制度の変化に翻弄されているのではなく、制度を使いこなしているかどうか——この差が、5〜10年後の生き残りを分ける。
具体的に今すぐ点検すべきことを挙げると、まず加算の取りこぼしがないかどうかの確認だ。処遇改善・特定処遇改善・ベースアップ等支援の3加算が一本化された現行制度の下で、算定要件を満たしているにもかかわらず申請していないケースが相当数ある。
次に、人材確保の手段を「国内求人のみ」に絞っていないかどうかの見直しだ。外国人介護人材の活用は検討だけでも行う価値がある。制度の理解、受入れ体制の整備、申請手続きの準備——これらには時間がかかるため、早めに動くほど選択肢は広がる。
そして事業の将来設計。後継者がいない、出口が見えないという状態を放置していると、気づいたときには交渉力がない状態で廃業を迫られることになる。売却や承継を検討するなら、事業に「値段がつく状態」のうちに動くことが重要だ。
私のところに来る相談の多くは、何かが限界になってから来る。もう少し早く来ていれば、と思うことは少なくない。加算の整備も、外国人雇用も、事業承継も、早く動けば動くほど選択肢は増える。このコラムがその一歩を踏み出すきっかけになれば、と思って書いた。