FINANCE & SUCCESSION|資金繰り・承継
「うちの事業所、利益が出てるのか出てないのか、よく分からない」——多くのデイサービス経営者から聞こえる本音です。月次決算を見るだけでなく、5つのKPIを毎月追いかけることで、経営の「健康状態」を即座に把握できます。
📋 この記事のポイント
- 月次決算を待たずに、5つのKPIで経営状態を即把握
- 5つのKPI:稼働率/1人あたり介護報酬/人件費率/加算算定率/営業利益率
- 各KPIの計算方法・健全水準・改善アクションを解説
- 月次定例の「数字会議」の運用方法も提示
01なぜ月次でKPIを追うのか
多くのデイサービス経営者が、年に1度の決算書しか見ていません。決算書が出てくる頃には、すでに数ヶ月が経過しており、問題が起きていてもすぐに手を打てない状態になっています。
月次でKPIを追うことには、3つの大きなメリットがあります。
①異常を早期発見できる
稼働率が突然落ちた、人件費率が跳ね上がった——こうした変化に1〜2ヶ月以内に気づければ、原因を特定して即座に対処できます。半年放置すると、傷は深くなります。
②金融機関・支援者との対話の質が上がる
銀行融資や事業承継の相談時、「直近の数字」を即答できる経営者は信頼されます。「決算書を出してきたら考えます」では、機動的な経営判断ができません。
③スタッフとの目標共有ができる
「今月の稼働率は何%」「目標は何%」と数字で語れる経営者は、スタッフからの信頼が違います。経営者の意思が「数字」を介して現場に届きます。
02KPI① 稼働率
計算式
稼働率(%) = 月間実利用延べ人数 ÷(定員 × 営業日数)× 100
例:定員25名・営業日数22日・月間延べ利用者数440人のデイサービスの場合
440 ÷(25 × 22)× 100 = 80%
健全水準の目安
| 稼働率 | 経営状態 |
|---|---|
| 90%以上 | 優良。利益確保しやすい。新規受入枠の検討 |
| 80〜90% | 健全。多くの黒字事業所がこのゾーン |
| 70〜80% | 要注意。新規利用者獲得策を検討 |
| 70%未満 | 赤字リスク。早急な原因究明と対策が必要 |
※規模・地域・サービス特性により目安は異なります。あくまで一般的な参考値です。
改善アクション
- 居宅介護支援事業所への営業(ケアマネ訪問頻度を上げる)
- 口コミ・紹介制度の強化
- 体験利用キャンペーンの実施
- 差別化要素の強化(機能訓練特化、認知症特化等)
- 送迎エリアの拡張検討
03KPI② 1人あたり介護報酬(ARPU)
計算式
ARPU(円) = 月間介護報酬総額 ÷ 月間実利用者数(実人数)
例:月間介護報酬総額600万円・実利用者数50名の場合
6,000,000 ÷ 50 = 120,000円/人
なぜ重要か
稼働率が同じでも、「利用回数の多い人」と「加算をしっかり算定できている人」で構成されている事業所は、ARPUが高くなります。
このKPIが低い場合、以下のいずれかが原因です。
- 利用者あたりの月間利用回数が少ない(週1〜2回利用者中心)
- 介護度が低い利用者が多い(要支援・要介護1中心)
- 加算算定率が低い(次のKPIで詳述)
改善アクション
- 週3〜4回利用者の獲得(ケアマネとの連携強化)
- 個別機能訓練の質向上による利用回数増
- 加算算定の見直し(KPI④参照)
- 地域密着型・認知症対応型への展開検討
04KPI③ 人件費率
計算式
人件費率(%) = 人件費総額 ÷ 介護報酬月額 × 100
※人件費総額には、給与・賞与・法定福利費(社保・労保事業主負担)・退職金引当を含みます。
健全水準の目安
| 人件費率 | 経営状態 |
|---|---|
| 60〜65% | 健全。人件費と利益のバランスが取れた状態 |
| 65〜70% | 要注意。家賃・経費を圧迫し始める |
| 70%超 | 危険水域。赤字または極めて薄利 |
| 55%未満 | 人材不足リスク。質の低下や離職増懸念 |
⚠ 注意:処遇改善加算は人件費率を歪めます
処遇改善加算分は介護報酬に含まれる一方、その全額が人件費に計上されます。「処遇改善加算を含む数値」と「除く数値」の両方を見ることで、より正確な経営判断ができます。
改善アクション
- シフト最適化(過剰配置の見直し)
- 非常勤職員の活用
- 業務の可視化(誰が何の業務に何時間かけているか)
- ICT・介護ロボットによる業務効率化
- 離職率低下による採用コスト削減
05KPI④ 加算算定率
計算式
加算算定率(%) = 加算による収入 ÷ 介護報酬総額 × 100
なぜ重要か
基本報酬は事業形態と利用回数で決まりますが、加算は事業所の取り組み次第で増やせる「努力可能な収入」です。同じ稼働率でも、加算算定率が高い事業所は確実に利益が出ます。
典型的なデイサービスの加算算定率は20〜30%。これより低い場合、取れていない加算がある可能性が高いです。
取得状況の棚卸しチェック
- 個別機能訓練加算(I)(II)
- 科学的介護推進体制加算
- ADL維持等加算
- 入浴介助加算(II)
- 認知症加算
- 口腔機能向上加算
- 栄養アセスメント加算
- 処遇改善加算(区分の見直し)
取れていない加算がある場合、要件と現状のギャップを整理し、計画的な要件充足を進めることをお勧めします(具体的な取り組みは「加算・LIFE」カテゴリの記事で順次解説していきます)。
06KPI⑤ 営業利益率
計算式
営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 介護報酬月額 × 100
※営業利益 = 介護報酬 −(人件費 + 経費 + 減価償却)
健全水準の目安
| 営業利益率 | 経営状態 |
|---|---|
| 10%以上 | 優良。再投資や役員報酬の余裕あり |
| 5〜10% | 健全。中小デイサービスの平均水準 |
| 5%未満 | 薄利。固定費削減・収入増の対策必要 |
| マイナス | 赤字。緊急対策・専門家相談が必要 |
福祉医療機構(WAM)の経営指標との比較
福祉医療機構が公開している「介護事業経営概況調査」「介護事業経営実態調査」には、デイサービスの平均的な収支比率・利益率が掲載されています。自施設の数字と全国平均を比較することで、立ち位置を把握できます。
07KPIダッシュボードの作り方と運用
最小構成のダッシュボード
Excel・Googleスプレッドシートで作成可能です。1シート、12ヶ月分の表で十分です。
| 月 | 稼働率 | ARPU | 人件費率 | 加算算定率 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2026年4月 | 85% | ¥120,000 | 62% | 25% | 8% |
| 2026年5月 | 82% | ¥118,000 | 63% | 25% | 7% |
| 2026年6月 | … | … | … | … | … |
月次「数字会議」のすすめ
毎月1回、30分でいいので、KPIを確認する定例会議を設けることをお勧めします。
- 参加者:経営者、管理者、生活相談員(または事務担当)
- 頻度:月1回(決算が締まった翌月)
- 議題:先月のKPI、前月比、3ヶ月平均、目標との乖離、改善策
- 記録:簡易議事録を残す(変化の追跡のため)
08まとめ
5つのKPIは、デイサービスの「健康診断」のようなものです。健康診断を毎年受けるように、毎月数字をチェックすることで、経営の小さな変化も見逃さなくなります。
✓ 5つのKPI(再掲)
- 稼働率(健全水準:80〜90%)
- 1人あたり介護報酬(ARPU)(業態別の比較)
- 人件費率(健全水準:60〜65%)
- 加算算定率(目標:25%以上)
- 営業利益率(健全水準:5〜10%以上)
来月から、この5つのKPIを月次で追ってみてください。3ヶ月続ければ、自施設の傾向が見えてきます。1年続ければ、経営判断の質が劇的に変わります。
数字は、経営者を裏切りません。事実を直視する勇気が、事業を強くします。